渋谷で最近好きな店・ずっと好きな店 小宮山雄飛さん【あの人の“旅”の話】

今気になるあの人に、こだわりの旅とおすすめの「旅リスト」を聞くインタビューシリーズ。

生まれも育ちも原宿で、2015年からは渋谷区の観光大使、またクリエイティブアンバサダーも務めている生粋の渋谷っ子、ホフディランのボーカル・小宮山雄飛さん。現在の活動は音楽の枠組みを超え、食に関する書籍も数多く出版。2018年秋には渋谷区渋谷にレモンライスのお店もオープンし、話題を呼んでいます。小宮山さんのルーツを語る上で欠かせない渋谷エリアを中心に、食道楽の歴史を語ってもらいました。

食にこだわりをもつ家庭で育った

—————— 子どもの頃から外食は多いご家庭だったんですか?


父がとても食道楽な人だったので、家族で外食をする機会は多かったです。原宿や青山辺りは外食産業が豊富で、つねに新しいトレンドがうまれる場所でした。エスニックブームが訪れたり、ハーゲンダッツが青山にやってきたり(1984年)。母は食に関してストイックで、出来合いのものは許さず自分で作る人だったから、外食するにもきちんとした料理を出すお店に連れて行ってもらっていました。

——— 家族でよく訪れた思い出のお店はありますか?


今も北参道にある〈新亜飯店〉は、おしゃれ中華のハシリでした。メニューには載っていないんですが、手羽先の中にフカヒレが入っている料理がご馳走で。子ども心に、これはひとり1本だろうなって思って心して食べていましたよ(笑)。その他に、小籠包とチャーハンを食べて帰るというスタイルでしたね。もう閉店してしまいましたが、お米屋さんが営んでいた定食屋〈久保田〉の生姜焼きもお気に入りでした。

新亜飯店 投稿者:FOXEY1602

——— 自分の意思で外食するようになったのはいつ頃ですか。

小学校6年生の時です。中学受験で代々木まで塾通いが始まって、生まれて初めて電車を使って生活するようになったんです。その間で見つけた〈カレーの王様〉(閉店)という店が、クルトンと、小さいチーズ、フライドオニオンが乗せ放題だったことに感激して、わざわざ両親を連れて行きました。普通のカレーだったんですけど、子ども心に「乗せ放題」というものが嬉しかったんでしょうね。〈梅本>(代々木店は閉店)という立ち食い蕎麦屋さんで大盛りを頼むものも楽しくて、友達を連れていったり。自分がお金を払って食べるということも嬉しかった。思えば僕の「食道楽」は、代々木からスタートしたのかもしれません。

中学生、飲食店の面白さに目覚める

——— 小学6年生で立ち食い蕎麦……、早熟ですね!

影響を受けたとしたら父だと思います。江戸っ子的な人で、蕎麦屋での振る舞い方を教えてくれたりしましたよ。まずはつまみを食べて、日本酒を飲んで、〆で蕎麦を食べるとか。父がやっていたのを見て育ったという感じです。

——— 今に通じる原体験のように思えます。そこからどんどん食べ歩きを?

中学生の時高田馬場のピアノ教室に通っていたんですが、早稲田通り沿いに〈夢民〉というカレー屋さん(現在はお台場に移転)、その横に〈えぞ菊 戸塚店〉というラーメン屋さんがありました。両方とも行列店で、〈夢民〉は寡黙にカレーを食べなければいけない雰囲気で、〈えぞ菊〉はスタンプカードがあった。その二つのスタイルが、当時とても面白いなと思ったんです。お店で喋ってはいけないストイックさって日本くらいじゃないですか? 本当は喋っちゃいけないわけじゃないんだろうけど、そんな雰囲気、一種特殊なカルチャーですよね。

東京のことは、全部知っておきたい

——— 当時、お店選びはどのようにしていたんですか?

グルメ本もインターネットもないので、人から聞く情報が全てでした。荻窪に喋ってはいけないラーメン屋があるらしい、マシマシという呪文を言う店があるらしい、ハチマキを巻いたおじさんが池袋でつゆのないラーメンを作っているらしい、みたいな。武蔵境あたりにラー油とか醤油とか自分でかけて混ぜるそばがあるらしいと聞いたので行ってみたら、それが〈珍々亭〉の油そばだったんですけど、帰ったらその裏にある丸善という店が油そばを始めたらしいという説も聞いてしまって、それでまた武蔵境に戻って真相を聞いたり。噂がいっぱいあって、いろんなところに行ったり来たり。それはそれで面白かったですね。

珍々亭 投稿者:Mitsuzo777

——— 噂を聞きつけると、とりあえず食べに行くんですね。

そもそも旅が好きで、それと同時に東京を全部知りたいという気持ちが強い。自分の街を全部知っておきたいんです。赤坂に泊まってるんだけど、どこか美味しいとこない?とか、今三鷹にいるんだけどいいところない?とか、質問されたら答えたい。高校生くらいから、全駅を制覇したいと思って毎週末どこかに行っていました。別に行きたくない街もありますけど、行っておかないと、みたいな。行くことが重要なんです。

——— その使命感がすごいです。今は逆に情報が溢れているくらいですが、どうお店探しをしているんですか?

今も人から聞くことが多いですね。食べ物仲間がいるんですが、同じような価値観の人たちが集まってて、ある種、人のキュレーションみたいなスタイルというか。あと、自分としては、できるだけ人が知らないものを紹介したいんですよね。有名なところは僕が行かなくてもいいから。

最近好きな店、ずっと好きな店。

——— 最近お気に入りのお店を教えてください。

イタリアンの〈クヨール〉というお店は、サービスがすごく良くて。友達が誕生日だったんですが、もうお店の人にわざわざ言ったりしないじゃないですか。だから自分たちで乾杯の時にお誕生日おめでとうって言ったくらいなんですけど、それを聞いて最後にケーキを出してくれたり。真っ当で、美味しいお店でした。あとは〈ミラン・ナタラジ〉という自然派のインド料理屋さんです。ランチが1000円でサラダの取り放題、ドレッシングも手づくりで、めちゃくちゃ美味しい。渋谷ランチでは一番です。

渋谷区で誕生した名店の数々。

——— 渋谷区の飲食店ならではの魅力は何だと思いますか?

70年代、80年代のイタリアンとか当時新しくて、今はオールドスタイルの定番になっているお店が多いと思います。当時はそれがおしゃれだった。今も続いているお店が多いんです。当時の先端みたいな。

——— 渋谷・原宿の変遷を幼い頃から見てきた小宮山さんに、渋谷区のおすすめレストランをあげてほしいというリクエストをしました。そこで小宮山さんが作ってくださったリストは「渋谷区生まれの名店」というもの。〈カプリチョーザ〉や〈壁の穴〉など、渋谷が一号店だった有名店がたくさんあるのに驚きました。

カプリチョーザとか、五右衛門とか、今なぜ、という感じですよね(笑)。僕は渋谷区の観光大使をしています。渋谷区は、世界中の食や文化が集まるところが面白いんですが、渋谷区で生まれたものが外に出ていくということをもっと考えた方がいいんじゃないかと思っていて。そこで今回はリスペクトも込めて、一号店を選びました。カプリチョーザの一号店なんてもはや誰も考えてないと思うんです。当たり前にそこにありすぎて。たらこスパとか、カジュアルイタ飯の走りが渋谷で生まれたのが70年代の“イタ飯ブーム”。今でこそ、日本中どこでも食べられるけれど、実は70年代にそれが始まっていたんですよ。

だから〈カプリチョーザ〉は、レジェンドですね。大学生くらいからよく使っていますが、今も背広のおじさんが一人で食べている雰囲気がいい。ずっと変わらず美味しいです。〈壁の穴〉も和風スパゲティの元祖。和風スパはここからなんだぞって自分に言い聞かせるために行ったりします。そして〈五右衛門〉は、箸で食べるスパゲティを始めた名門ですよね。和と洋の融合がかっこよかったです。残念ながら渋谷公園通りにあった〈五右衛門〉の一号店は閉店してしまったんですが、現在も本店が渋谷にありますね。

——— 渋谷区のおすすめレストランは 他にもありますか?

リトルショップ〉は渋谷出身の店主が営んでいる毎日行列のお店です。自分たちの街に還元したいという思いなのか、食べきれないくらいの美味しいカレーを提供してくれるんですよ。約45年の歴史を2018年に閉じてしまった〈富士屋本店〉ですが、元々酒屋さんだった立ち飲みの名酒場でした。今はワインバーとなって新オープンし、新たな歴史を踏み出しています。

長年通っている店として、恵比寿の〈コルシカ〉は、子どもの頃に親に連れて行かれて、今は自分も子どもを連れて行ったり。真っ当な感じがいいですよね。夜遅くまで営業していて夜食に使えるっていうのもあり、いまだに行きますね。

コルシカ 投稿者:charliebrown5959

——— 長く続く店の特徴はなんだと思いますか?

自然体でやっている人の店なんじゃないでしょうか。続ける人って、売れたから続けているわけじゃないと思うんですよ。音楽と同じで、売れてなくてもギターを弾いて曲を作り続ける人みたいに。売れることが目的だった人は、売れなくなったら辞めちゃう。でも、続ける人は、混んでいようが赤字になろうが関係ない。普通にずっとやっているんだろうなって。

——— 2018年秋には、ご自身で〈レモンライス東京〉というお店をオープンされました。

昔って、食べたことのないものがあったじゃないですか。たらこスパとか、タイ料理とか、広島風のお好み焼きや、下町で食べるもんじゃとか。初めて食べる喜びというものがあったんです。そういう初めてが、今は良くも悪くもなくなってきていますよね。特に、渋谷ではなんでも食べられる。だからこそ、新しいものをみなさんに食べてもらいたいと思って。「レモンライスってなに?」「渋谷に行くと黄色いご飯があるらしい」みたいな感じになったらいいなと思っているんです。

投稿者:ジロウチャン

——— 新たな渋谷の一号店ですね。

渋谷を訪れる世界中の人に、渋谷だけで食べられるものを紹介したかったんです。まだテイクアウトだけで、数も限られているんですけど、いずれは、渋谷を1号店として、あちこちにまで行くといいなと思っていますね。

小宮山雄飛さんの旅リスト
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小宮山雄飛(こみやま ゆうひ)
@yuhikomiyama
1973年原宿生まれ。96年にホフディランのボーカル&キーボードとしてメジャーデビュー。幅広い知識を活かし、ラジオやテレビのパーソナリティー、雑誌連載、WEBプロデュースなど幅広く活動している。初の書籍『カレー粉・スパイスではじめる 旨い! 家カレー』が好評。2016年発刊、渋谷のこれからをまとめた『Hanako FOR MEN』の「渋谷(区)新地図」を責任編集。“渋谷な”145人の仲間とローカル215軒をガイドした。居酒屋体験をまとめた『今日もひとり酒場』も好評発売中。

撮影/小林昂祐  取材・文/菅原信子(euphoria FACTORY)

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