【あの人の“旅”の話】4000匹食べたマニアが語るたい焼きの世界 イワイサトシさん

人の数だけ旅のスタイルがあり、旅の数だけ物語があります。今気になるあの人に、こだわりの旅とおすすめの「旅リスト」を聞くインタビューシリーズ。

「こんなところにあったんだ!」街角や商店街、住宅地に突如として現れるたい焼き屋。個人店もあればチェーン店もあり、その数は東京都内だけで200店前後。今まで4000匹以上のたい焼きを食べてきた「たい焼きマニア」のイワイサトシさんに、おいしいたい焼き屋を教えてもらいます。 

材料、焼型、焼き方。奥深いたい焼きの世界。

——— 4000匹も食べていると、飽きることはありませんか。

私はたい焼きに1匹たりとも同じものはないと思っています。形もそうですが、フワッ、サクリ、カリッというような皮の食感や、ねっとり、やわらかい、ほろほろ落ちるといった餡子の食感。口の中に広がる印象はそれぞれ全然違います。初めて行くお店では7匹買って、まず1匹目は餡子中心に、2匹目は皮中心に食べて印象をメモしておきます。残る5つは家に持ち帰り、記録用の写真を撮ってから“1日1たい焼き”ずついただきます。

——— たい焼きの皮の原料は小麦粉・牛乳・卵とシンプルなのにどうしてそんなに味が違うのでしょう。

素材自体の質も関係しますが、例えば重曹が多ければパリパリに、豆乳や米粉が多ければモチモチとした食感になります。そのほかにも塩や黒砂糖が入っていたり。小麦・水以外の何かを探ってみます。焼き方でも違いが出ますよ。

——— よく、天然ものと養殖ものなんて言いますよね。

1匹用の焼き型で1匹ずつ焼く「一丁焼き」を「天然」、一度にいくつも焼ける型で一気に焼く「連式」を「養殖」と呼ぶ人がいますが、近年は違ってきたと私は思っているんですよね。そもそも昔は今のような電気式の焼型がなく、ガス式の焼型しかありませんでした。ガスで連式の型を使うと焼きムラが出てしまうので、短時間でふっくら焼けるようにふくらし粉などが入ったたい焼き用のミックス粉を使います。そうすると、皮が分厚くなってしまう。その点、一丁焼きではふくらし粉が必要ないので、パリッと薄皮で焼けるんですよね。これが、「天然物は薄皮」というイメージがついている所以です。

——— だから連式には薄皮のイメージがあまりないんですね。

でも、最近では電気式が登場し、生地自体も進化しているので、連式でもぱりっとした薄い皮が焼けるようになったんです。例えば、本所吾妻橋にある〈たい焼きこうちゃん!〉は、私の連式たい焼きについての固定観念を覆した、下町の隠れた名店です。今日来ている経堂の〈たい焼き SAKURI〉さんもそう。皮はパリパリで薄く、餡子はたっぷりで食べやすいです。

なので、いまは天然も養殖もなく、作り方に違いがあるだけ。竿で釣るか網で獲るかの違いなんだと思います。天然ものじゃないとおいしくない、というのは間違いなんです。

1匹1匹“表情”が違う、ユニークな縁起物。

——— たい焼きにはまったきっかけはなんですか?

実は2011年の春にダイエットを始めて、100キロあった体重を半年で70キロまで落としました。1日一万歩以上歩き、野菜や海藻を主に食べていて、頭の中はずっと「この生活が終わったら何を食べよう?」ばかり。それが、肉でもラーメンでもなく、餡子だったんですよね。ダイエットが終わったら、有名な和菓子屋を回りはじめました。冬だったので、あったかいものを食べようと思っていたとき、ちょうど南北線に乗っていた。「四ツ谷駅で降りたら〈わかば〉に寄れるな」と思いついたんです。

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——— わかばさんといえば、東京三大たい焼きのひとつですよね?

麻布十番の〈浪花家總本店〉、人形町の〈柳屋〉、四ツ谷の〈わかば〉。この3つが御三家といわれているんですが、わかばさんは私の人生を変えるたい焼きになりました。その時初めて行ったんですが、列ができていてその横を出来立てのたい焼きがベルトコンベアーで運ばれていくんです。まるで一本釣りされたカツオがビチビチと跳ねているようでした。そこで、同じ型で焼いているのに1匹1匹“表情”が違うなと気づいたんです。たい焼きってこんなに精巧な形だったっけ?と。

——— 味ではなく造形に興味が湧いたんですね。

本業はデザイナーなので(笑)。そこから、また南北線に乗って麻布十番へ向かい〈浪花家總本店〉に行きました。するとまた全然形が違ったんです。てっきりどこのたい焼きも合羽橋なんかで同じ型を買っているのだろうと思っていたんですが、特注だったんですね。「だったら、柳屋さんはどうだろう?」と思い始めてしまって。気付けば4000匹食べていました。

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——— 今川焼きや大判焼きもありますが、そもそもたい焼きはなぜ鯛の形をしているんでしょうか。

諸説ありますが、明治時代後期に大阪から東京へ進出してきた<浪花家總本店>の初代店主が考案したと言われています。庶民にはなかなか手の届かない高級品だった鯛を日常でお菓子として食べることで、「めでたい」を身近に楽しんでいたのでしょう。ユニークな縁起物ですよね。東京には人形焼など、型焼きの文化が元々あったことも大きいかもしれません。

今川焼きと値段はそんなに変わらないのに、職人さんがこだわって焼き型を細工し、焼く人も焼きムラができないように工夫する。当時の、新しいことを始める心意気みたいなものが伝わってきますよね。そういうところから、たい焼きは東京の民芸品だと私は思っています。

いま、アツイたい焼き屋。ずっとあるたい焼き屋。

——— たい焼き屋が多いエリアなんてあるんでしょうか。

2大巨頭は、浅草と池袋です。特に浅草はたい焼きのパラダイスですね。神社仏閣、昔ながらの商店・飲食店などが集まり、観光地でもあるのでインバウンド効果も。間口を広げるための洋菓子寄りのたい焼きも増えています。〈たい焼き工房 求楽〉は、自分でたい焼きを焼き上げることのできる体験型イベントも実施しています。池袋はチェーンが多いです。一丁焼きのチェーンであり、全国に30店舗を構える〈鳴門鯛焼本舗〉もありますね。あとは、東武東上ラインの下板橋駅・大山駅あたりもいい感じで熟成してきましたよ。老舗もあって、新興勢力も出てきている。

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「Taiyaki City Tokyo ―聖地対決!その1:『浅草』」を見る >>

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「Taiyaki City Tokyo ―聖地対決!その2:『池袋』」を見る >>

——— イワイさんが一番好きなたい焼き屋さんは?

何度も通ってしまうのは、青いワゴン車が目印の東伏見と吉祥寺にある〈鯛焼きのよしかわ〉です。小豆は大納言で一丁焼き。餡子がたっぷりで美味しいです。皮はパリパリですっごく薄いので、餡子の水分ですぐ皮が柔らかくなり、たい焼きがお辞儀してきます。作り方も斬新で、皮が薄すぎて破けてしまうので、そこを補修するように重ねて焼いていくんです。それがはからずもミルフィーユ状となってパリパリに。焼きたてをすぐ食べてほしいですね。

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——— 長く続くたい焼き屋の特徴はどんなところにあるのでしょう?

クロワッサン皮やタピオカの入ったもちもちした白い皮など、近年は皮を工夫して活路を見出すところが多いですが、やっぱり餡子がおいしくないとだめですね。〈浪花家總本店〉さんが雑誌などで「皮は餡子を食べるための容れ物」とおっしゃっているのを拝見しましたが、まさしくその通りです。お客さんは餡子についているので、餡子を変えればすぐに気付かれてしまう。餡子を和菓子屋から卸していたところを、節約のために業務用のものに変えたら、2ヶ月もたずに潰れてしまったお店を知っています。

——— 餡子ではない、変わり種のたい焼きについてはどう思いますか?

岐阜の〈たいやき わらしべ 大垣店〉では、たい焼きを真ん中で切って具を挟んだオープンサンドがありますし、長野では〈垂水〉が鯉焼きというのを焼いてます。伊豆大島の民宿〈島京梵天〉では、リゾットが入ったたい焼きが朝食で食べられるなど、場所ごとに違うたい焼きをその場の雰囲気でいただくのが好きですね。店の流儀で食べますし、とりあえず乗ってみます。色んなたい焼きがありますよ。

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投稿者:Onion

 

たい焼き屋は、街が育てる。


——— どうやったらそんなにたい焼き屋を見つけられんですか。

たい焼き屋というのは自由で、悪くいえば大雑把なところもあるんです。情報が出ていなくて、ネットの目撃情報頼り。開店時間に行ったけど、まだ開いていないということがよくあります。住宅街にあるたい焼きやの周りをうろうろしていたら職務質問されたこともあります(笑)。店主も高齢化してきていて、後継者もいないところが多い。でも、たい焼き屋は新しくできるのも早いんです。だから、私もまだ行けていないところが20件以上あります。

——— たい焼き屋は簡単に始められるものなんですか。

もともとたい焼き屋というのは、駄菓子屋やタバコ屋のおばちゃんが1畳あれば焼き台を置いて始められる副業でもあったんですね。東京の子供たちにとっては「日常」の一幕だった。『およげ!たいやきくん』の影響で、たい焼きに行列ができるようになったし、地方にもたい焼きというものが浸透しました。一晩で20万も稼いだというお店の話を聞いたことがあります。しかし、この頃は高度経済成長期真っ只中。合成甘味料・着色料が使われたたい焼きもあったから、あの世代の子供達は「たい焼きはベタ甘で、ねちょねちょした食べ物」だと思っている。良くも悪くも安価で子供たちのお腹を満たしたんです。そして大人になってたい焼きを食べなくなってしまった。

でもほんとうのたい焼きというのは、餡子はそこまで甘くはないし、皮もパリパリで栄養もある。長年地域に根ざしているたい焼き屋というのは、街を象徴していると思うんです。常連のおばあちゃんが「餡子はもっと甘いのがいい」「皮は硬いのがいい」とか、そんな風に店主と会話を重ねて、今の味がある。街がたい焼きを育てていると言ってもいい。私はそういうところにスポットを当てて、これからもたい焼きを紹介していきたいですね。

イワイサトシさんの旅リスト
「ワタシの人生を変えたマイルストーン的たい焼き」を見る >>

イワイサトシ @satoshi_iwai 大の餡子好きで、これまでに4000匹以上のたい焼きを食べてきた和スイーツ評論家。2015年に『東京のたい焼き ほぼ百匹手帖(立東社)』、2016年に『私がしあわせな東京豆大福五〇の覚書き(TOKYO NEWS BOOKS)』発刊。本業はデザイナーとして官公庁や大手証券会社、ミュージシャンのパンフレットなどのエディトリアル・デザインを手掛ける。

撮影/赤澤昂宥 取材・文/橋本安奈(euphoria FACTORY)

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