南インド&屋久島 マインドセットの旅 コムアイさん 【あの人の“旅”の話】

今気になるあの人に、こだわりの旅とおすすめの「旅リスト」を聞くインタビューシリーズ。

「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、独特の音楽表現やファッションで世界中のファンを魅了する、コムアイさん。およそ1ヵ月をかけて、プライベートでひとり旅した南インドや、今年4月にリリースした新曲づくりで訪れた鹿児島県・屋久島の話をうかがいました。

栄養になるものを求めて。

——— 南インドのお土産を持ってきてくださったんですね。

この布は、ルンギという巻きスカートで、こっちがインドのお金……。インドのお金(お札)は全部ガンジーなんです。いいですよね、潔くて。また行こうと思って換金してないんです。

この紙には「ラーガ」という、インドの音階のようなものが書いてあります。サリガマパダニサ~♪(ドレミファソラシドの音で歌う)。髪と髭が白くて長い、フルートがうまいヨギグル(先生)に、ラーガをひとつ教えてもらいました。インドには日本のヨナ抜き音階のように、独自の音階というかキーが何百とあって。その中でインプロ(即興)して、音楽をつくっていく「カルナータカ」という南インドの古典音楽は素晴らしいですよ。

——— 今回の旅は、その音楽を学びに?

ラーガのことは知りませんでした。もともと歌や踊り、儀式などに興味があり、日本の盆踊りや神楽を観るのが好きです。日本にも、本当のグループトランスが生まれている盆踊りがたくさんあるんです。岐阜の郡上おどりや白鳥おどりとか。

——— 南インドにはどうして行ったんですか?

昨年の年末にロサンゼルスに引っ越す計画があり、ビザの用意を始めていました。LAに行くのは、歌手としてのキャリアを築くにはよかったかもしれません。ライブもいっぱいあるし。でも今はショービジネスのライブを見て学ぶというより、もっとすてきな歌を吸収したい。そう思った時に、アイヌ音楽や琉球音楽、日本各地にある土着の盆踊りなど、国内やアジアの文化への興味が一段と強くなってきました。そこで引越しのために空けていた1ヵ月を、南インドの旅行に充てたんです。

——— 土着のコアな文化が見たかったんですね。

自分がパフォーマンスをしていくなかで「栄養とするもの」はどこにあるかと考えたときに、チベットとか南インドがいいと思ったんですよね。

 

毎朝4時起きで、祭り探し。

——— インドではどんな風に過ごしてましたか?

今回はインド南西部のケーララ州だけに滞在しました。神様をおろす「テイヤム」という祭りを見たくて。顔も服も真っ赤な、異界から来たという神様が暴れるんですよ。見た目がすごいです。

投稿者:Dr-Mustang-Sally

御神体のある祠に行って、呪文のような、お経のような言葉を唱えると、神様が人に移るそうです。その役は一人の男の子がつとめるわけですが、その子の親戚や友人がまわりで儀式を手伝っていました。「俗物」だと知っている自分の身近な人に神様がおりてきて、特別なものになるのをそばでじっと支える様子に心が動かされました。

——— 神様が普通の男の子に乗り移るということなんですね。

テイヤムは朝5時など早朝に一番大きな祭りをやるので、私は毎朝4時くらいに噂を聞きつけて、まわりの人に住所を調べてもらって行きました。でも、行ってみても「昨日終わったよ」なんて言われたり。結局トゥクトゥクの人と宿に引き返すことが何度もありました。ですが、今日はあっちで(テイヤムやってるよ)!みたいなこともあるので、懲りずに次の日も行くんです。

——— 臨機応変に動かないといけないんですね。

インドにいる間はずっとサイコロを振っている感じで。日本みたいに確かな、期待通りのことが起こるパーセンテージは低い。私はそれがすごく好きでした。

 

よい宿泊先の選び方。

——— 1ヵ月間ずっとケーララ州で過ごしたということですが、宿は変えながら滞在したんですか?

あまり移動したくなかったので、計3ヵ所に滞在しました。全部エアビー(Airbnb)で探しました。次にどこに行きたいかをホストに伝えたら、おすすめの民泊を教えてくれて、また次のところへ。どこもとてもよかったです。最初の民泊をネットで真剣に選ぶということが、今回の旅の肝でしたね。

——— コムアイさんのよい民泊施設の見極め方、教えてください。

うーん。設備というよりは、宿の写真から感じる相性を読み取ることでしょうか。どんな人たちが、どんな気持ちでやっているか。これだ!とピンとくることが重要です。ホストがその宿の写真をどんな風に撮るかに、いろいろ表れている気がするんですよね。

——— 写真や言葉の選び方にも出ますよね。

1 件目に選んだコチという街にある民泊は、アーユルヴェーダのセラピストがやってました。しかもそのお姉さんが古典音楽をやっている友達の多い人で。そこを選んだのは、ほかのサイトで見ると「アーティストインレジデンス」と書いてあったからなんです。アーティストは安く泊まれるという仕組みになっていました。ホストは、自分で何かを作っているおもしろい人に来てほしいと思っていることが伝わってきたし、きっとアーティストが集まる環境だろうなと思い、そこに決めました。

——— ほかの民泊はどうでしたか?

バンガロールで2泊くらいしたお家も最高で。部屋が屋上にあって、ブランコやジャグジーもありました。壁もきれいな紫に塗ってあって。朝からおばあちゃんたちが洗濯する音、お寺のお経、野犬、猫、鳥の鳴き声が聴こえてきました。ちょっとうるさかったけど(笑)。

———それは、眠れなさそう……(笑)。

私は全然大丈夫なんです。逆に東京は静かすぎて、人や動物の生きてる感じが薄い気がする。そこでは遅くまで寝ていると、ホストのお母さんがフルーツ盛って部屋に起こしに来てくれたり。そのお母さんは料理が上手で、インドの家庭料理を教えてくれました。

——— 貴重な体験ですね。

一人で行っていたからかもしれないです。カップルや友達と行っていたら、ホストとは挨拶をする程度で、ホームステイというよりは宿として利用していたと思います。私はひとりだったので、おすすめの場所を聞いたらそのままバイクに乗せてもらって、あちこち案内してもらえたのがよかったですね。

 

インド人を信用する。

——— 現地の方と密な時間を過ごした、特別な旅だったんですね。

南インドの人たちは人懐っこいので、そういう縁がどんどんできますよ。列車に乗ってるだけでも会話が始まります。ゴアに行くという男の子たちとは、電車のなかで6時間くらいしゃべりっぱなしでした。私はその時、マラヤーラム語のテキストをもって勉強していたので、発音を教えてもらいました。男の子たちは電車に持ち込んだスピーカーで、この音楽が今イケてるんだ!といってノリノリで聴かしてくれたり。私がテイヤムを見に行くと言ったら、テイヤムの音をググって爆音で流し始めて(笑)。

——— すごく楽しそう!

そしたら離れた席からおばちゃんが来て、「うちはがテイヤムをずっとやってる家なの」って合流してきたり。自然に始まる交流が本当に楽しくて、いま日本で新幹線に乗ると、さみしくて、悲しくなっちゃいます(笑)。きっと私のインドの旅は、ケーララという狭い地域にしか行かなかったし、日本に来て奄美大島だけにいるというような偏った旅だったかもしれません。南のあたたかいインド、すてきですよ。

——— 怖い思いはしなかったですか?

ホストファミリーにも「エアーで行きなさいよ。絶対そっちのほうが安全」と言われましたし、同じ宿に泊まっていた子も6ヵ月インドに滞在した末に列車で財布をすられたと言ってました。実際に手放しで安全なわけでもありません。「インド人を信用するな」と日本人にも、そしてインド人にも毎度言われました(笑)。でも、途中から全員信用するようにしました。だってその方が気持ちがいいから。

——— 全員ですか!

ナンパしかしてこないインド人もいるんですけど、そういう人は同じことを言うだけで会話が成り立たないですし。インドには、「この人落ち着いていておもしろそうだな、目に叡智が宿っているな」って人がいっぱいいるんですよ(笑)。そういう人は自分からナンパするんです。公共の場でも、現地の人と一緒にいたら、盗まれたりはしないと思います。

——— 向こうから寄ってくる人より……

そうそう、話しかけられる前に自分でおもしろい人を見つけて、話しかける! インドではそうするといいかもしれません。ある日、毎日のようにバイクに乗っけてくれていた人がお腹を壊して家で休んでいたので、初めてひとりで町を散策したら、客引きがめんどくさくてびっくりしました。全然違う街に感じましたね。ホストファミリーを味方につけるのは超大事です。

▲巻きスカートのルンギは、日本でいうと「もんぺ」のような田舎のスタイル。

▲「…… こうだったけな~? インドでは “ なんて汚い着方をしてるんだ!” って誰かが着方を教えてくれるんですよ」。

▲結び目が左右どこにあるかで、ムスリムかどうかもわかるという。

グッドバイブスオンリーなインド人。

———テイヤムのほかに、何かこれがしたいというのは決めて行ったんですか?

今回、なんとなく湖や狭い川を小さな船で進んでみたいというのが脳裏にありました。ケーララ州のバックウォーターで、ゆっくり考え事をしたかったんです。小さな運河でウォータークルーズをしたとき、70 代くらいのめちゃくちゃ怒っている白人男性がいて。その人は、映像で見てた景色じゃないことに怒っていました。「これが見たかったからお金払ったのに!」とツアーを主催するインド人に、スマホの画面を見せていて。カナルが思っていたより小さかったみたいです。でも、インド人たちはキレられてもまったく悪気がないというか「ここすごい綺麗なのに、なんで? 僕のこと嫌い?」みたいなテンションで。

——— (笑)。怒っている意味が理解できないんでしょうね。

むしろ、「だったらさ、あっちも行ってみよう!」と言うんです。お金を返すとか、取引をする様子は一切なく、あげられるものを増やそうとしていました。だから、インド人に納得いかない取引をされたときは、むしろ何かを追加する方法がいいと思います。これもやってとか、もっと働いてとか。「じゃ、関わるのやめよう」みたいな冷たい方法じゃないんです。そのやりとりを横で見てて、すごいことを学んだなと思いましたね。あの怒っているおじいさんみたいにならなければいいだけなんだなと。

——— 結局その人は納得したんですか?

全然!(笑)しかもそんな状況でも、インド人の人たちは鼻歌とか歌っています。インド人やばいんですよね。グッドバイブスオンリーすぎる(笑)。でもその1週間後くらいに、そのおじいさんはツアーの人のところにまた泊まっていたので、おじいさんもおじいさんでタフですね。

「どっちもいい」を鍛える。

——— 南インドでの経験が、新曲の制作にも生かされていると、Youtubeの新作発表イベントでおっしゃっていましたが、どんな部分なんでしょうか?

新曲の話だけに留まらず、それさえあれば(なんだって大丈夫)というほどに大事なことを学んだかもしれないです。いいことも悪いことも起こりましたけど…… テイヤムを見れなかったとか。そんな時に「なんてついてないんだ」とは思わなくなりました。これはおもしろかったな、素敵な人に会ったな、夜風の中のドライブがすごく気持ちよかったなとか。ちゃんと目の前にあることを感じ取って楽しむ。その瞬間の連続が、一生になっていくことを実感しました。

移動時間も空気や前にいる人、景色を楽しむ。どんな時間でも、意味のない時間と切り捨てないほうがいいなと思いましたね。インドではマインドセットを習いました。

——— リリースしたYoutube Originals 作品の「Re:set」そのものですね。

日本から一度離れたことで、自分が生きていて何をしたいか、というくらい引いたマインドで、どんな作品ができてほしいかを考えられたことも重要な気がします。売れる方法を優先的に考えるのではなく、「たとえ誰も聴かなくても、どうしても人に届けたい」という気持ちを大切にする。これを選択して失敗したらどうしようと心配するのではなく、これでもいいし、あっちでもいいと思う。例えば、曲順を迷うときに、どっちを選んでもめちゃめちゃいいよねという感じです。完全に開放した状態でいられると、「あっこれはいいものができるな」って、確信がもてるんです。

屋久島で根っこが生える。

——— ミュージックビデオの撮影は屋久島だったんですよね。

昨年(2018年)の5月でしたね。撮影は3~4 日で、滞在は1週間くらいでした。

——— 気に入った場所はありましたか?

尾之間温泉〉という温泉がすごくよくて、毎日行っていました。お湯がかなり熱くて、1 回目は「殺す気か!」と思って、入らなかったです(笑)。でも一度入るとくせになりました。1 分入るだけでも芯があったまって、どこが冷たいか分かる。足の指があったまったら、ずっとぽかぽかしました。

ほかにも記憶に残っている神社があって。駐車場から歩くんですけど、道中雨と風が襲ってきて怖いんです。不穏な空気があって、それが音になっているような。岩場のすぐそばにありました。七福神のえびすさんって、海辺の洞窟に祀られていることが多いと思いますが、ここで人びとは漁の安全を願います。そして海辺は死体など漂着物が行き着くところでもあり、人を弔う場所でもある。そこに寄り付いたものや離れたものを思いましたね。

『海に消えたあなた』という曲のMVは、その神社の洞窟の中で撮りました。そこにいると、きゅーっと心が締め付けられるような、つばが出てくるような感じがしましたね。なぜかはわからないんですが、何かを失ったような気持ちがしました。

———ミュージックビデオでも、いくつも印象的なスポットが登場しますね。

白谷雲水峡〉の森や苔は美しかったですよ。行きやすい〈ヤクスギランド〉でも苔がたくさん見られます。

——— トリップアドバイザーには、おすすめの場所をまとめて公開できる「旅リスト」の機能があります。コムアイさんが屋久島で印象に残った場所を教えてください。

牛床詣所〉はもともと山の入り口で、男性が山に入るときに女性や子どもが見送る場所です。すべてが苔むしていて、不思議なところ。昔の人はここで安全な登山を祈願しました。〈大川の滝〉はおばあちゃんでも簡単に歩いて行けるところです。滝の真下まで行くと、ステンドグラスみたいに滝から光が入ってくるんです。朝行ったんですけど、綺麗でしたね。

投稿者:hide2004

投稿者:Marius G

コムアイさんの旅リスト
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——— ほかの島にも行かれたことがありますか?

久高島〉という沖縄の南方にある島には影響を受けています。本島から日帰りで行ける、とても小さくてのんびりした島です。友人に神様の島だから行った方がいいとおすすめされて。山がなくてフラットで、1 時間あれば自転車で回れます。ほんとうに気持ちいいです。琉球王朝だった時代に、王様が参拝しに来てたんですよ。

投稿者:hirokuasaku

——— その島に比べると屋久島は?

屋久島は、久高島ほどに宗教観はなくて、とにかく自然が強い場所ですね。雨が激しく降って、コケが地面を覆っている。人の気配があるというよりは、山など自然の気配が圧倒的に強くて、人間はこっそり暮らしているという印象です。私は自然の力がある場所で、しかもそれを受けて人間が文化を築いてきたような場所が好きです。人間がつくりだした文化と自然がまた交流し合うのがいいんですよね。

——— 屋久島で一番印象に残っていることはなんですか?

飛行機に乗って東京に帰ってきた時に、水風呂に入ってるみたいに、自分だけ温度が違う感じがしたんです。お腹の底とか、足の下にあったかいものがある感覚がして。あったかい場所に生えてた植物の根っこを抜いた感じでしょうか。根っこを抜いたからだんだん冷めて来るんですけど、抜いてすぐだから、自分があったかいのがわかるんですよね。

不思議と屋久島にいる間は、パワーをそこまで感じなくて。山に入っても普通で、跳ね返されたり湧き上がったりするような強さはなかった。でも屋久島から出たときに、自分が違うものに変わっていたことに気づくんですよね。

人間には根っこが生えてると思っています。場所を移動して、その土地のご飯を食べ、空気を吸い、その気温で過ごしていると、人は変わると思うんですよ。その土地から根っこを抜いたら、また違うところに根っこが生える。

ずっと何かを探している、旅。

——— 最後に、コムアイさんにとって、旅が人生にどう影響を与えてきたのか教えてください。

旅をしている間は、生きた心地がするというか。実はそっちなんですよね、生きているのが(笑)。なので「影響を与える」みたいな感覚はないです。旅は「休む」ためではないんですよね。休むためと説明したりはするんですが(笑)、旅をしているときの方が生きた心地がする。あとは、小さい頃からここではないどこかをずっと探している感覚があります。

——— それは、次に旅する場所ということですか?

というよりは、いつか住む場所や自分がふるさとにする場所ですね。ここで育った感じがする、というところを探しています。インドはかなりそういう感じがあって、早くもう一回行きたいし、長く住んでみたいです。

——— 将来、どんなところに住みたいですか? 

あったかいところですかね。心がほぐれて、優しくなるなと思いました。ココナッツオイルもちゃんと溶けるし(笑)。

コムアイ(水曜日のカンパネラ)
アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応して創り上げるライブパフォーマンスは必見。好きな音楽は民族音楽とテクノ。好きな食べ物は南インド料理と果物味のガム。音楽活動の他にも、モデルや役者など様々なジャンルで活躍。2019年4月3日、屋久島とのコラボレーションをもとにプロデューサーにオオルタイチを迎えて制作した新EP「YAKUSHIMA TREASURE」をリリース。同名のプロジェクト「YAKUSHIMA TREASURE」として各地でライブやフェスに出演中。

撮影/後藤武浩 取材・文/橋本安奈(euphoria factory)

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