【あの人の“旅”の話】カレーがつなげる人と旅。水野仁輔さん

人の数だけ旅のスタイルがあり、旅の数だけ物語があります。今気になるあの人に、こだわりの旅とおすすめの「旅リスト」を聞くインタビューシリーズ。

出張カレー調理集団「東京カリ〜番長」の活動を19年ほど続けてきた、水野仁輔さん。2016年からは本格的なカレーが作れるレシピとともにスパイスセットを届けるサービス「AIR SPICE」を開始したことでも注目を集めています。カレーに関する書籍も40冊以上出すほど、カレーの知識と探究心が無限大の水野さんは、カレーを求めて旅に行くことも多いそう。旅のエピソードとともに、土産話や旅先の相談をしにいく店主の店、また一緒に旅することもある店主の店を教えてもらいました。

美味しいカレーをみんなで盛り上がって食べたい、から始まった

——— “カレーの人”として知られる水野さんですが、実際のところ何をしている人なんでしょうか。

本業はカレーに特化した出張料理人です。真面目な肩書きだと「株式会社AIRSPICE」代表取締役で、スパイスの販売をしているということになるんだけど、自分としては“出張カレーのプロ”だと思っています。20年近く全国各地に出張して、その土地の食材を使ってカレーを作ってきたんです。去年はニューヨークまで行って、イベントをやってきました。

——— すごい!活動のきっかけはなんだったんですか?

そもそも、仲間内で「カレーを作るの好きなんだ、じゃあ今度食べさせてよ〜」なんて話をしている中で、「せっかくだから公園に集まってやりましょう」と恵比寿の公園でカレーを作ったのがきっかけだったんです。それが1999年の9月25日、20年くらい前ですね。そのイベントが楽しかったから毎月やっているうちに、だんだん他のイベントに呼ばれるようになって。「この人たちは呼んだらカレー作ってくれるわけ?」という感じで認知されていったんですよね。

——— レシピからガイド本まで、カレーにまつわる書籍もたくさん出されていますね。 

2000年に『俺カレー』という本を初めて出しました。カレー本なんだけど、料理としてのカレーとそれ以外の側面をミックスして一冊にしたので、いわゆるサブカル・アングラ本です。その本に勝手にカルチャーとかカッコよさとかを見出した人がいたんですね。たとえば神戸の〈カラピンチャ〉の店主、濱田君は、彼が大学卒業した頃に『俺カレー』に出合って、「カレーをカッコいいと思ったのは生まれて初めてだ」と感じてカレー店をやることを決めたらしいんです。

カレー店主と出かけるカレー巡りの旅

——— インドにずっと通われていますよね。好きとはいえ、カレーを食べに海外まで行ってしまう人はあまりいないと思います。

昔はいなかったですね。今は1〜2月になるとカレー店をやっている人たちがこぞって店を閉めてインドに行くんです。そうすると現地でよく会うんだよね。「俺明日チェンナイ入るんだけど、どっかで会えるかもね」みたいな感じ。

——— カレーを求めて旅に出るときはテーマを決めているとか。

そうそう。去年は「苔(コケ)」を探しに行ったんです。もともとインドのチェッティナードという地域の料理をテーマにしていたんですが、「カルパシ」という苔をスパイスみたいにして使うと聞いたので、じゃあその苔探しに行こう、と。チェッティナード料理について詳しい〈Spice Kitchen Moona〉の店主、諏訪内君と、〈砂の岬〉の鈴木君、マレーシア・クアラルンプールのインド人街にチェッティナード料理店がたくさんあると教えてもらったので、彼らと行くことにしたんです。そんななか、〈beat eat〉の店主竹林さんとお店で喋っていたら、彼女も行きたい、と。ちなみに〈beat eat〉はジビエのお店なんだけど、竹林さんは狩猟免許を持っていて自分で撃った鹿なんかを料理に出すんです。

カレー店主の行動力に刺激を受ける

——— それは〈beat eat〉に食べに行った時に決まった話ですか?

そうそう、竹林さんとは仲良しだから、店に行くたびに次どこ行くんですか、みたいな会話をよくしていて。今回は竹林さんが「マレーシアは今私が一番行きたいところです!一緒に行っていいですか?」って言い始めたんです。そしたら本当に店の予約の合間に1泊3日で来て、現地でカレーを食べまくって帰って行きました。その行動力に結構刺激を受けて、俺ももっと行かなきゃダメだなって。

——— 旅先ではカレーを食べる以外に観光したりもするんですか?

去年中国の四川省に行ったんです。麻婆豆腐にはスパイスが使われていますよね。だから「麻婆豆腐はカレーなのか」という疑問の答えを見つけるために行ってきたんです。スパイスが使われている四川料理を食べ歩いていたんだけど、いろんな人に「パンダを見に行ったほうがいいよ!」と言われて。でも僕としてはやっぱりパンダより麻婆豆腐だから。見ないで帰ってきちゃいました(笑)。

カレーはどこからきてどこへ行くのか

——— カレーの定義も難しいですが、世界にはどんなカレーがあるんですか?

カレーの伝搬ルートはざっくりいうと2種類あります。インド人が移民として渡った先で彼らのカレーがその国の食と融合したパターンと、カレー粉が生まれたイギリスを経由して、インドとは関係なく浸透するパターン。「僕らの料理にこのカレー粉ってやつを入れたらおいしくなるんじゃない?」みたいなね。その観点で、僕は今ジャマイカに一番行きたいんです。カリーゴートという伝統的なヤギの煮込み料理にカレー粉を入れたものがあって、今ではジャマイカ人のソウルフードなんですって。これがイギリス統治時代に生まれたらしいんだけど、イギリス人がカレー粉を持ってきたからなのか、イギリス人が労働力として連れてきたインド人の影響を受けたのかがわからない。それを確かめに行きたいですね。

——— もはや関野吉晴さんの“グレートジャーニー”の世界ですね。

ほんとそう。そうやって旅の目的をもつと、旅先でも楽しいんですよ。「あそこにはカレーがあるらしい」なんて、次に行く国のアイデアが出たりするとリストにしておいたりして。10年くらい経って、自分なりの線でつながって、世界のカレーはこうなっているんだなって形になればいいですよね。

旅仲間のカレーの味

——— そういう話を、カレー店の方々としているんですか?

そうですね。まず諏訪内君や竹林さんみたいに一緒に旅に行く人たちがいます。〈カラピンチャ〉の濱田君とも、彼がスリランカ滞在中に訪ねたりしました。あと〈ハバチャル〉の飯塚君も今度インドとネパールに一緒に行きますね。他には、〈ヘンドリクス カリー バー〉は大体飲みに行って、若林さんと「最近どこ行きました?」みたいな旅の話をしていますね。あと札幌のスープカレーの店〈gopのアナグラ〉の店主信さんも旅好きで、「この前パキスタン行ったんですよ!」なんていうふうにレポートしてくれます。変なスパイスを見つけると「これ知ってますか?」って写真を送ってくれたり(笑)。

——— 旅先では、入るお店はどうやって調べるんですか?

現地の人に聞くことが多いですね。それと、鼻が利くというか、雰囲気で決めます。よく一緒に旅する諏訪内君は特に鼻が効くんです。そもそも僕たちは1回の旅行ですごい数のお店に行くんです。

——— でも、カレーってそんなにたくさんの量を食べられる料理ではないですよね。

それもあって一人で行くのは結構辛いです。何人かで行けば、いろんなお店に行けるし、他のものも頼める。それに好きなことで話が盛り上がって、新しい情報が入って、また次に行きたい場所ができて。「今度ここに行く」って口に出すと、一緒に行く人ができたりして、それが連続してどんどん楽しくなっていく。もともと旅が好きなわけではないはずなんですけど、好奇心や探究心を満たすために結果的に旅をしてるんですよね。

——— トリップアドバイザーには、オススメのスポットをまとめてリストや地図で一覧表示できる「旅リスト」の機能があります。水野さんにも今回「旅とカレー」というテーマで旅リストを作っていただきました。リストに載っているお店について、これは外せないというメニューやポイントをいくつか教えてください。

Spice Kitchen Moona〉は魚料理ですね。といいつつ僕はチキンカレーが一番好きなんですけれど、まずは魚料理を食べてほしい。〈砂の岬〉は夜に行くのが一番豪華でいいですよ。〈ヘンドリクス カリー バー〉は難しい……。実はカレーをあまり食べないんです。つまみになるスパイス料理がいっぱいあって、いつもそれらをあてにウィスキーのソーダ割りを飲んでカレーを食べずに帰ってしまうんですよね。でもポークカレーがシグニチャーメニューです。〈ナイルレストラン〉はもちろんムルギーランチですね。〈ダルバート食堂〉ではダルバートと一緒に、単品で売っているアチャールを頼んでほしい。ネパール式の乳酸発酵させた漬物のことで、店主の遼君が自分で1カ月くらい寝かせて作っているんです。〈シバカリーワラ〉は行列が苦手で最近行けてないなぁ。〈カラピンチャ〉はスタンダードな本日のカレーセット。〈gopのアナグラ〉はスープカレーのお店なんですが、それとは別に不定期で店主が旅先で出会った料理を再現するんです。それが一番おすすめですね。水野のオススメはもうちょっとあるけど、この10軒は、くっちゃべりに行くときです。

ナイルレストランのムルギーランチPhoto by 太聞 岩

 

水野仁輔さんの旅リスト
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水野仁輔(みずの じんすけ)
@AIRSPICE_mizuno
1974年静岡県生まれ。「AIR SPICE」代表。5歳の時に地元である浜松市にあったインドカレー専門店「ボンベイ」の味に出会って以来、カレーを食べ続け、独学で研究を続ける。カレーの出張料理集団「東京カリ〜番長」を立ち上げ、以来19年にわたってカレー専門の出張料理人として全国で活動している。カレーに関する著書多数。東京で「カレーの学校」という2週間に1度の通学講座を主催している。

撮影/三浦咲恵  取材・文/林 紗代香(euphoria FACTORY)

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